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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)157号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第二号証(本願明細書)、甲第三号証(昭和六一年七月一四日付け手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。

本願発明は、車両の懸架装置、特に鉄道車両用の懸架装置に関するものである(本願明細書第四頁第八行ないし第一一行)。鉄道車両用の懸架装置における弾性側部支持体は車両の重量を支え、車両の垂直運動及び水平運動を許容するものであるが、既知の懸架装置の側部支持体は二つのばね手段でできているため、製造費が比較的高く、特に側部支持体が金属ばね手段に接着したゴムから成つているような好適な懸架装置の製造費は高く、また、緻密性の点でも所望のものに及ばないという欠点があつた(同第四頁第一二行ないし第六頁第一行)。本願発明は右欠点を改良した車両の懸架装置を提供することを目的とし(同第六頁第二行及び第三行)、本願発明の要旨のとおりの構成を採用したものである。

本願発明は、右構成を採用したことにより、その側部支持体においては、大きな垂直方向の変形を許容するほかに、充分な水平方向の変形をも許容し、正常な作動範囲では圧縮負荷が増すにつれてせん断剛性も増大し、その結果、比較的大きな垂直荷重を受けた場合でも良好な水平方向の安定性を与え、また、側部支持体の増大した垂直方向のばね率が負荷の大きな範囲にわたつて実質上一定の垂直方向の固有振動数を与え、その結果、車両懸架装置の特性が実質上一定の周期となり、車両により担われる荷重に依存しなくなること、さらには、従来のゴムを間挿接着してなる金属型の側部支持体に比べて比較的金属部品が少なく、製造費が安上がりとなる等の作用効果を奏するものである(同第一一頁第一一行ないし第一二頁第一三行)。

(二) 他方、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例記載のものは、鉄道車両および一般産業機械において、例えばコイルばね等と組み合わせて上下、左右の変位をとるためのゴム座の改良に関するもの(第一頁第一欄第一七行ないし第一九行)であり、従来のゴム座は圧縮時には皺が生じ、また変形が与えられたときには著しい引張力を生じゴム座の寿命を短くする欠点があつた(第一頁第一欄第二〇行ないし第二七行)ところから、これら欠点を解決することを目的として(第一頁第一欄第二八行及び第二九行)、「図(別紙図面二参照)に示すごとく上下金属板12、13に接着したゴム弾性体11の中間部に一ないし複数個のクビレ部14を有するくびれ形であつてかつコイルばねを直列配置して使用するゴム座(第一頁第二欄第二三行ないし第二五行)」の構成を採用し、これにより、圧縮荷重時において弾性体には皺が発生せず、またこじれ荷重に対しても金属板とゴム弾性体の接際部付近に張力の発生が少ないためゴム弾性体の寿命を長くし、接着面より剥離することも少ないという効果を奏するものである(第一頁第二欄第一二行ないし第二一行)ことが認められる。

2 ところで、前記「審決の理由の要点」第3項の記載によれば、審決は、「第一引用例の懸架装置におけるゴム座が車体の側部に設けられたものか否か、また、該懸架装置は、ゴム座以外にどのような装置を備えているのか不明であるのに対し、本願発明の懸架装置は、車体と該車体を支持する車輪支持フレームとの間に介設される側部支持体と、(中略)側部支持体に加えて設けられる装置14、15とを備えている」点で相違していると認定しているのであるから、第一引用例に記載のゴム座の構成を本願発明の側部支持体の構成と具体的に対応させ(相違点(一))、その上で、ゴム座のゴム弾性体11と本願発明の側部支持体における管状本体20とを対比している(相違点(二))ことが明らかである。

右事実からすれば、審決は、本願発明における側部支持体と第一引用例に記載のゴム座とは、その設置箇所の点で相違はするが、両者はともに車体の支持体である点で一致していると認定しているものと解せられる。

そこで、第一引用例に記載のゴム座が、本願発明における側部支持体に相当する車体の支持体であるか否か検討する。

(一) 本願発明の車両の懸架装置は、車体と該車体を支持する車輪支持フレームとの間に介設される側部支持体と、車両の牽引及び制動状態において車両の通常の運動方向において起こる力に対して抵抗するように前記側部支持体に加えて設けられる装置とにより成るものであり、右側部支持体は、車体の重量を支持し、車体の垂直運動及び水平運動を許容するものであることは前記1(一)で認定したとおりであつて、本願発明においては、車体と該車体を支持する車輪支持フレームとの間に介設されるものは側部支持体のみであり、その側部支持体によつて車体の垂直運動及び水平運動を許容しているものである。

(二) 他方、第一引用例記載のものは、前記1(二)で認定したとおり、上下金属板12、13に接着したゴム弾性体11の中間部に一ないし複数個のクビレ部14を有するくびれ形であつてかつコイルばねを直列配置して使用するゴム座である。

そして、前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、「本考案は鉄道車輛および一般産業機械に於て例えばコイルばね等と組み合わせて上下、左右の変位をとるためのゴム座の改良に関するものである(第一頁第一欄第一七行ないし第一九行)。」「上記のとおりコイルばねと直列にゴム座を配置し上下、左右の変位をとるばね装置に於て(第一頁第二欄第四行及び第五行)」と記載されていることが認められる。

右事実からすると、第一引用例記載のものは、これが鉄道車両に使用される場合、「ゴム座はコイルばね等と組み合わせて上下、左右の変位をとる」ものであるから、車体と該車体を支持する車輪支持フレームとの間に介在して設けられたものであることは技術上自明のことであり、しかも右ゴム座は、コイルばねと直列配置して使用するものであるから、車体と車輪支持フレームとの間に介在されるものは「コイルばねとゴム座」であり、「コイルばねとゴム座」によつて車体の垂直運動及び水平運動を許容しているものと認められる。

このように、第一引用例記載のものにおいては、ゴム座のみによつて車体の垂直運動及び水平運動を許容するものではないから、第一引用例に記載のゴム座が本願発明の側部支持体に相当するものでないことは明らかである。

してみると、第一引用例に記載のゴム座と本願発明の側部支持体とは、ともに車体の支持体である点で一致しているとした審決の認定は、第一引用例記載のものの技術内容を誤認したものといわざるを得ない。

被告は、「審決は、第一引用例に記載のゴム座は車両の懸架装置の一部であるが、その懸架装置がゴム座以外にどのような装置を備えているのか不明である、としており、ゴム座がコイルばね等他の弾性体と組み合わされることなく車体と車輪支持フレームの間に介設されるものである、というような認定はしていない。」と主張する。

しかしながら、審決は、既述のとおり、相違点(一)において「第一引用例の懸架装置は、ゴム座以外にどのような装置を備えているか不明であるのに対して、本願発明の懸架装置は、側部支持体と、車両の牽引及び制動状態において車両の通常の運動方向において起こる力に対して抵抗するように側部支持体に加えて設けられる装置14、15を備えている」と認定しているのであつて、第一引用例に記載の懸架装置において不明であるとしたゴム座以外の装置とは本願発明の「右装置14、15」に相当する装置を指していることは明らかであるから、被告の右主張は採用し得ない。

3 以上のとおりであつて、審決は、第一引用例記載のものの技術内容を誤認した結果、本願発明と第一引用例記載のものとの一致点の認定を誤つたものであり、これが審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容する。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

車体と該車体を支持する車輪支持フレームとの間に介設される側部支持体と、車両の牽引及び制動状態において車両の通常の運動方向において起こる力に対して抵抗するように前記側部支持体に加えて設けられる装置とを備えて成る車両の懸架装置であつて、前記側部支持体16はゴムあるいはゴム状の材料からなる管状本体を有していて、この管状本体は該管状本体の両端部25の間のほぼ中央に位置する腰部24を有しており、また、前記側部支持体は、車体の重量が前記管状本体をこの管状本体の両端部から伸びる方向に圧縮するように車両の懸架装置の中に設けられ、さらに前記管状本体の両端部は、懸架装置の垂直方向の固有振動数が車両の通常の作動時に生ずる荷重条件にわたつてほぼ一定になる如く、前記腰部からそれぞれの端部に向かう凸面状の経路に従つて漸進的に増加する外径を有していることを特徴とする車両の懸架装置(別紙図面一参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面一

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別紙図面二

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(以下省略)

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